第47回日本アルコール関連問題学会 熊本大会 大会長
比江島 誠人(医療法人横田会向陽台病院 院長)
この度、第47回アルコール関連問題学会学術総会を2025(令和7)年9月5日(金)-9月6日(土)の2日間、熊本市にある市民会館シアーズホーム夢ホールで開催させていただくことになりました。九州での開催は2020(令和2)年に新型コロナ感染症のため第42回福岡大会が中止・紙上開催となったため、2011(平成23)年の第33回佐賀大会以来、14年振りとなります。
私が初めて日本アルコール関連問題学会の運営に関わったのは2003(平成15)年5月30日-5月31日にシーガイア ワールドコンベンションセンター・サミットで開催された第25回日本アルコール関連問題学会 宮崎大会で、下記のプログラムでした。大会は盛況で、運営や参加者の熱意は素晴らしいものでした。当時はアルコール依存症に対する認知行動療法前夜で、ギャンブル依存症等の行動嗜癖は俎上に載せられることはなく、かろうじて薬物依存に関する分科会が開催されましたが、世間も社会も医療も教育も「違法薬物乱用には刑罰」という意見が大勢を占めていたと思います。私は亡き近藤恒夫さんとともに分科会1の座長を務めさせてもらいました。
- 2003(平成15)年5月30日(金)第1日目
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基礎講座1 「アルコール依存症とは何か?」
基礎講座2 「アルコール依存症の予防と早期発見(初期介入)について」
分科会1 「アルコールを含む依存性薬物の害を子どもたちにどう伝えるか」
分科会2 「暴力被害に対する支援 ~現場で必要なこと~」
分科会3 「アルコール症患者の社会復帰」
分科会4 「アルコール問題と薬物療法」
分科会5 「外来治療のスタンダードとは?」
分科会6 「アルコール治療・認知行動療法の可能性と限界について」
分科会7 「アルコール問題・地域における保健師の活動」
分科会8 「薬物問題について」
分科会9 「アルコール看護について」
分科会10 「司法精神医学とアルコール問題」
- 2003(平成15)年5月31日(土)第2日目
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特別講演 「アルコール医療・保健・福祉の今日的課題」
講師 白倉 克之 先生(国立療養所久里浜病院院長)
それから15年が経った2018(平成30)年6月に公表されたICD-11では「依存症」は物質使用症又は嗜癖行動症群というカテゴリーとなり、ギャンブル行動症やゲーム行動症といった嗜癖行動が物質使用症と同じ診断カテゴリーに位置付けられました。そして依存症の治療・支援にあたっては、公衆衛生上のハームリダクションという考え方で国民の健康を改善するという施策が、個人への治療選択肢として応用され、アルコール依存症の治療に減酒治療も選択肢となりました。
少し時間が遡りますが、アルコール依存症治療に取り組む先達や仲間の熱意で2013(平成25)年12月アルコール健康障害対策基本法が成立しました。
薬物についてはメディアでも「アルコールは病気だけど薬物は犯罪だから刑務所へ」という意見はほとんど聞かれなくなり、多くの都道府県には薬物依存症専門医療機関が選定されています。刑法も改正され刑の一部執行猶予制度(2016(平成28)年6月施行)ができて薬物乱用者/依存症者が早めに社会復帰し、回復に資するプログラムを受けやすくなりました。
ギャンブル等依存症対策基本法(2018(平成30)年10月)が施行され、第四条には「アルコール、薬物等に対する依存に関する施策との有機的な連携の配慮」が必要とされています。決して十分とは思いませんが、この20年で「依存症」の世界が大きく変わったのは、医療者、当事者・回復者、家族、関係機関など依存症に関わる全ての人の熱意が灯火となり、国を照らしているのだと思います。
第47回 日本アルコール関連問題学会 熊本大会では、多くの準備委員、プログラム委員が熱意をシェアし、各地で灯火となっている人にスポットライトをあてた分科会が開催できるよう願い「一隅を照らす」というテーマとし、基調講演・特別講演を依頼しました。
基調講演 『一隅を照らす アフガニスタンで命を支えた中村哲』(村上優先生)
特別講演 『ハンセン病問題の解決をともに』(八尋光秀先生 弁護士)
熊本大会が依存症治療に取り組む全ての医療者、当事者、家族に加えて、現代の日本で生きる全ての人の心に残る灯火となるよう願っています。
2003(平成15)年5月30日 宮崎市シーガイアにて